商売には様々な形態がありますが、近年は「殿様商売」という言葉が注目を集めています。アップルをはじめとして殿様商売では?と疑問を持たれている企業も多く、昨年は老舗店が潰れる事態となっています。そこで今回は、殿様商売の意味と類語と言い換えの例、そう呼ばれる理由について解説します。殿様商売の企業例も紹介するので、参考にしてください。
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この記事の監修者
キャリアカウンセラー|秋田 拓也
厚生労働省のキャリア形成事業にキャリアコンサルタントとして参画。
大手警備会社にて人事採用担当として7年間従事の後、現職にて延べ200名以上の企業内労働者へキャリアコンサルティングを実施。
■所持資格
国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
「殿様商売」の意味と類語
「殿様商売」と聞いてもピンとこない若者でも、実は自分もそのような製品やサービスの利用者であることは珍しくありません。
ここでは、殿様商売の意味と類語、言い換え例について説明します。
「殿様商売」の意味
まず、殿様商売の意味について説明します。
辞書で定義されている意味
goo辞書では、殿様商売の意味を以下のように説明しています。
商品知識や客とのかけひきなど、もうけるための努力・工夫に気を使わない商い方を皮肉っていう語。
つまり、商売するうえで努力や工夫をしなくても商品やサービスが売れるので、現状に甘んじているビジネスのやり方を「殿様商売」と呼びます。
そして、そうした商売のやり方を軽蔑するというニュアンスが加わっています。
「殿様商売」の意味は誤解・誤用されやすい
殿様商売は本来、「殿様のように何も恐れることなく悠然とし、利益にこだわらない鷹揚な商売のやり方」を意味しており、「やがて潰れてしまう」と思われていることを意味していました。しかし近年は、以下のようなニュアンスで使われることが増えています。
- 出品者に1ポイント付与を強制させたAmazonは、殿様商売だ!
この例文の場合、圧倒的優位に立っているAmazonが、顧客である出品者の利益や利便性を省みることなく、一方的な販売条件を押し付けているというニュアンスが感じられます。
これは、正しい使い方とはいえません。
「殿様商売」の類語・言い換え
「殿様商売」には、「士族の商法」「武士の商法」などいくつかの類語があります。ここではいくつかの類語を紹介します。
大名商売
2019年に吉本興業でトラブルが発生した際、ダウンタウンの松本さんが自身の番組の中で以下のようにコメントされました。
(吉本は)今、横暴になっているところがあると思うんですね。テレビ局とかに対しても、ちょっと大名商売しているな、ってところがちょこちょこ見受けられるので。
「大名商売」は国語辞典には掲載されていないものの、殿様は大名であることから、「殿様商売」と同じ意味で使われています。
売り手市場
売り手市場とは、買い手よりも売り手の方が需要が高く、優位に立てる状況をさします。そのため、売り手が思い通りに振舞うことができる、というニュアンスが込められています。
例として、以下のように「売り手市場」は使われます。
- 近年の就活は売り手市場だ
- 働き方が多様化し若者の企業志向が増えていることも、就活が売り手市場になる原因と考えられる
突出した製品やサービスを持つ企業は、消費者に対して有利であるので、その態度が批判されることもあります。
態度が士族の商法・武士の商法
「殿様商売」の類語に「士族の商法」「武士の商法」という言葉があります。
これは明治維新の頃、明治政府によって「士農工商」の身分差が取り払われたことに由来します。すべての身分が平等となって武士も特権を失い、中には商売に参入する武士もいました。
しかし、新しい変化に対応できず、高い身分かのように偉そうに振舞う店主が多く、そのために商売に失敗するケースがたくさん見られました。
そのことより、「あれは士族の商法だ」というように、商売のやり方が下手ことを例える表現として使われています。
殿様営業
「殿様商売」と同じ文脈で「殿様営業」という表現が使われることがあります。
本来は「殿様商売」と言うべきであり、「殿様営業」は本来正しくはありません。しかし、「押し売り」や「値上げ」などその営業方法を強調したい時には「殿様営業」との言葉で表されることもあります。
「殿様営業」は「殿様商売」と同じ意味だと考えて問題ないでしょう。
「殿様商売」の由来
「殿様商売」という言葉が使われるようになったのは、明治時代初期といわれています。明治維新によって廃藩置県や身分制度の廃止が行われたことで、武士の多くが商人に鞍替えしました。
しかし武士としてのプライドを捨てることができず、お客さんに丁寧な接客をしたり、頭を下げるのが難しかったようです。
さらに横柄な対応をする者も多く、市民がそれを皮肉ったのが始まりといわれています。武士の世間知らずさを揶揄するために、生まれた言葉といえるでしょう。
「殿様商売」の使用例
ここでは、殿様商売の使用例をいくつか紹介します。
- 殿様商売で有名だった高級百貨店が、近隣にアウトレットモールができて潰れてしまった
- 老舗のレストランを2代目が引き継いで1年で閉店したのは、殿様商売していたかららしい
- 同族会社の社長が3代目に代わったけれど、あんな殿様商売では倒産しても不思議ではない
殿様商売を使う時のポイントは、「それを続けると悪い結果につながる」というニュアンスを残すことです。
殿様商売だと言われる企業例
私たちに身近な企業の中にも、殿様商売をしていると思われているところがあります。ここでは、4社を例にあげて紹介します。
どの企業も、私たちの生活になくてはならない存在です。そのために、時として市場独占や身勝手な料金設定など、消費者から反感を買うこともあります。
以下では、それぞれの企業がなぜ殿様商売と言われるか、その理由を説明します。
①トヨタ
自動車業界で圧倒的なシェアを誇るトヨタも、殿様商売をしていると思われています。低価格・低燃費の車種で市場をある程度独占したうえで、高価格帯の乗用車も販売しているため、同業他社が付け入る隙がないと考えられます。
あと、トヨタは基本、強気の殿様商売なんで、ディーラーでの直接交渉はあまりオススメしないかな。
会社の伝統なのか、営業がホント何様ってのが多いから、僕はトヨタの車買わないw— ジャイアスとプリエ (@Gyaias_and_BigG) June 16, 2018
同業他社のようにディーラーが努力しなくても、トヨタの車を買いたいという消費者が多いので、接客に問題があることが窺えるコメントです。
②NTTドコモ
前身が電電公社であるNTTドコモが殿様商売だといわれる背景には、長年ユーザーとして利用しても一向に割引特典がないと感じている人が多いからのようです。また、通信料や通話料が高額だと感じている人も珍しくありません。
ドコモ、何度も確認しメールの回答も残ってるのに案内ミスで一時的に変更したプランを元に戻せなくなった。消費者センターもひどいって斡旋に入ってくれたけど都合のいい録音の部分のみピックアップして「お詫びするだけ」と何の対応もしないそうだ。殿様商売のクソ企業は早く潰れろ。#ドコモはクソ
— みみりん♡゜ (@xmimirinx) October 17, 2019
ユーザーからのクレームに対する対応に、誠意が感じられないことが伝わってくるコメントです。自社のあんないミスであっても言葉だけのお詫びで済ませようとする姿勢は、ほめられたものではありません。
③アップル
iPhoneユーザーを中心に、アップルを殿様商売していると不満に思う人が増えているようです。モデルチェンジのたびに価格が上がり、修理も簡単にできないなど、ユーザーの利便性を軽視しているように感じるのでしょう。
てかiPhoneXS。クッソ高すぎだろ。iPhone7から機種変しようと思ってたけど…出来ないレベルだわ。これからiPhoneはこんな高額商品を毎年発売するの?Appleが殿様商売続けるんだったらマジAndroidに変えるぜ?
— ヤツキング♔ (@yatsurugi319) September 14, 2018
製品開発やデバイスに用いられた技術は称賛しても、毎年高額商品を発売し続ける姿勢がユーザーのニーズにマッチしていないと感じさせるコメントです。
④マイクロソフト
マイクロソフトのOSである「Windows」は、ビジネスマンに圧倒的人気を誇っています。しかし他社と比べると高額で、公式サイトも情報を探しにくく、ユーザー目線にたっていないと感じる人も少なくないようです。
マイクロソフトはWindowsに関しては殿様商売なところあるんだよなあ、実際インフラにも等しいOSだから消費者は消費者なのに従わなければならない
— 狐 (@die_fox) April 27, 2019
ユーザーによっては、OSのバージョンアップに伴って不具合が出るデータを持つ人もいるのに、そこに対する配慮がないことを予想させるコメントです。
殿様商売だと言われる理由
前章で殿様商売と言われる4社を紹介しましたが、理由が気になる人も多いことでしょう。ここでは、企業が殿様商売だと言われる理由について説明します。
理由①|競合が少ない・弱い
殿様商売が続けられる理由として、その業界や市場において競合が少ない、あるいは同業他社が弱いことがあげられます。製品またはサービスに対する満足度が高い顧客が多く、リピートしてくれるからです。
ファンビジネスが成立していることで、ライバルが存在しないため、売り上げをキープすることができるとも言えます。
理由②|価格設定が高い
殿様商売をしていると言われている企業は、業界内で圧倒的なブランド力を誇っています。そのため、製品やサービスの価格設定が高い傾向があるのも事実です。
また、高額であることが高付加価値となっている製品やサービスも多く、殿様商売と揶揄しつつも利用している人も珍しくありません。
理由③|強気の接客態度
殿様商売をしている企業の製品やサービスには固定ファンがつき、高額であっても購入者がいることは前述しました。そのため自助努力をしなくても見込み客が多く、販売スタッフが強気の接客態度であることも少なくないようです。
お客さんの立場や気持ちに寄り添わない強気な姿勢のスタッフに、不愉快な思いをしている人が多いと考えられます。
殿様商売の企業は潰れる可能性もある
2019年7月31日のlivedoor®NEWSで「業歴400年超のかまぼこメーカー 倒産の理由に長年の『殿様商売』」という記事が掲載されました。
過去には皇室献上品に選ばれた製品をつくっており、地元でも「小田原みのや吉兵衛」のブランドは有名でしたが、消費が低迷しても経営改善にすぐに取り組まなかったことで、倒産を余儀なくされました。
企業はある日突然、倒産するわけではありません。その前兆が必ずあります。以下の記事では潰れる会社の特徴や共通点がまとめられていますので、ぜひ一読してみてください。
まとめ
今回は、殿様商売の意味やそう呼ばれる理由について解説しました。言葉の本質を理解すると、消費者に殿様商売していると思われるのは得策でないことがわかります。
現代は個人が簡単に起業できる時代です。また、物欲がない若者も増えており、現在の消費動向が続くとも限りません。現在殿様商売を続けている企業がどうなっていくのか、今後も注目したいところです。