仕事と家庭、どっちをとる?どっちもとれる?女性キャリアの描き方は変わった。

就活時期が撤廃され、ヨコ一列の就活からナナメの就活になる───。 情報収集・選考対策が個人戦化する通年採用時代で、ファーストキャリアの最善な意思決定を下すために必要な知恵を探るべく、Bizual編集部が様々な分野の専門家にアプローチする本連載。
今回は女性活躍、働き方改革などで精力的に発信・活動されている白河桃子さんをお招きし、女性キャリアの変遷や考え方についてお伺いしました。
女性のみならず男性もぜひこの機会に考えてみてはいかがでしょうか。

目次

Profile

白河 桃子(しらかわ とうこ)

相模女子大学特任教授、昭和女子大学客員教授。東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒業後、住友商事などを経て執筆活動に入る。総務省「テレワーク普及展開方策検討会」委員、経済産業省「新たなコンビニのあり方検 討会」委員、内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員などを務める。著書に『ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち』(中公新書ラクレ)、 『御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社』(PHP 新書) など 25 冊以上がある。

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この記事の監修者

キャリアカウンセラー|秋田 拓也

厚生労働省のキャリア形成事業にキャリアコンサルタントとして参画。
大手警備会社にて人事採用担当として7年間従事の後、現職にて延べ200名以上の企業内労働者へキャリアコンサルティングを実施。

■所持資格
国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)

女性キャリアの3つのフェーズ

─── 雇用機会均等法以降の女性キャリアの変遷についてお聞かせください。

日本の女性キャリアは3つのフェーズに分けられると考えています。

まず第1フェーズが男女雇用機会の均等です。1985年に男女雇用機会均等法が制定され男女平等に活躍ができる素地ができました。しかし、当時はまだバブル真っ盛りで24時間、滅私奉公な働きぶりを求められることが前提としてありました。そのため、ごく一部の女性は男性の働き方に合わせる形で長時間労働によってキャリアを築けましたが、一度寿退社、子育て退職をした女性がフルタイム正社員として復帰することは極めて難しく、多くの女性が家庭に専念せざるを得ないような時代でした。

第2フェーズとして、2010年の育児・介護休業法改正により育児休業、時短が充実したことが挙げられます。かつては育休を終えた女性が職場に復帰するやいなや、またフルタイムで仕事を再開する必要があったため、保育園の迎えといった育児ができないことが問題となっていました。そこで育児時短の措置義務化がされ女性が復帰し仕事を継続しやすい環境になったのです。正規職の女性の継続率が7割を超えているのも、この法改正がターニングポイントになっています。つまり、女性が仕事を続けることができてからまだ歴史が浅いと言えるのです。

─── なるほど。そこから女性もキャリアを目指しやすくなったということでしょうか。

いえ、実はこの育児時短も今、キャリアとの兼ね合いで課題となっています。労働時間が短い代わりに給与も減少し、制約的な時間の中で成果を出しても、評価を得られない。本人に向上心や意欲、能力があっても、上司にも自分と違うキャリアの時間軸を歩く人は育てにくいと思われてしまう。だんだんやる気のある女性のキャリア意欲も低減していってしまう。これを「意欲の冷却化」と呼んだりします。

この育児時短を助長していくことで表面上は”女性に優しい企業”と映るので、本来であれば育児時短は3歳まで義務化されていますが、企業によっては小学校卒業まで育児時短していいよ、というところもあります。そうした働き方を女性が長期間続けてしまうと、ますます男性は家事育児をしなくなり、女性のキャリアは閉ざされてしまいます。

そこに女性活躍推進法がきて、女性も職場復帰するだけでなくキャリア向上を目指そうという流れが起き始めました。それと「働き方改革」があって、初めて第3のフェーズになります。

─── 第3フェーズが直近の流れですね。どのようにして女性のキャリア向上を目指しているのでしょうか。

女性活躍とはいってもフルタイムに戻った瞬間に残業を余儀なくされては元も子もないですよね。

今までは女性だけゆるい脇道を用意されそこで仕事をしていてください、というようなある種、逆差別のようなものを受けていたと言えると思います。そのような状況下だと管理職になりたくてもなれない人が多かったのが実情です。

第3フェーズでやっときたのが働き方改革です。これまでは女性に両立を求めていたところ、初めてここで性別を問わず、全体として働き方を変えましょうとなりました。在宅、フレックスといった柔軟な働き方も推進され、男性の家庭進出もしやすくなり脱長時間労働の方向に世の中が動き始めたことで、徐々に女性がキャリアを目指しやすくなってきています。

─── 全体で女性に合わせた働き方に歩み寄りをしたというイメージでしょうか。

歩み寄るというよりは、女性以外も今までは不自由な働き方をしていたと言えますよね。男性も、早く帰宅して育児をしたり勉強したり、NPO活動をしたい人もいるわけです。

働き方改革によって、長時間労働が評価されるという働き方が否定されて、男性も他の人も自分で働き方を選べるようになります。そうすると子供がいない人にとっても本来的に生活が豊かになるはずなんです。

アンコンシャス・バイアスの払拭に向けて

─── 昔に比べて働き方を柔軟に選べるようになったのですね。女性のキャリアはどのようにわかれるのでしょうか。

2:6:2の割合と言われています。2割はキャリア志向、2割は家庭志向、残りの6割は環境によって左右される層と言われています。これまで、女性管理職になる人は2割の「何が何でもやる」といったタイプだけでした。

6割の方々には2つの支援が必要と感じています。1つは全体の働き方を支援することです。前述したような長時間労働の是正、自由な働き方を推進していくことですね。自由な働き方を選択できるよう、サントリーなどでは女性が育休復帰後にすぐにフルタイムで働く選択肢も選べるような制度があったりもします。

もう1つはアンコンシャス・バイアス(=無意識の偏見)を払拭するために、女性を取り巻く人にも働きかける必要があると思っています。管理職の人にアンケートをとっても、「男性部下の3年後のキャリアが描けるか」という質問に対しては「はい」と答える割合が多いのに対して、女性部下の今後の3年間のキャリアを描ける人はほとんどいないという研究結果も出ています。

つまり、部下をマネジメントする管理職の立場の方々が、自分が通ってないキャリアパスを想像することが難しいということです。こうした管理職の方々や旦那さんに向けた、アンコンシャス・バイアスを払拭できるような研修・教育といったものも必要だと考えています。

─── 実際にどのような取り組みがされているのでしょうか。

会社によっては育休復帰の面談は、夫が他社に勤めていても、上司+女性+他社の夫 の3者面談を開くところもあります。

企業からすると女性も自社にとって貴重な人的リソースです。女性だけに育児の負担がかかって仕事ができない状態だと、自社の人的リソースが削られてしまうわけです。そこで3者面談を開き、女性側もきちんと仕事ができる余白をつくるべく、男性と男性サイドの会社にも負担を求める。今後の共働きの可能性や配慮の仕方などの目線合わせの話をしたりします。

こういった取り組みの事例はまだまだ少ないですがどんどん増えていってほしいと思います。

家庭と仕事、片方を諦めない

─── 大学で女子大学生とコミュニケーションをとる中でどのような点に不安を抱えていると感じますか。

「やりたいことがわからない」、「仕事と家庭の両立が不安」という声が多いですね。

─── そのような学生に対してどのようなアドバイスをされてますか。

前者については働かないとわからないことが多いし、働きながらも見つかるので、心配しなくていいと伝えています。

後者については「制度をみないで風土をみる」ことをまず伝えています。制度として実在するのは確かですが、現場で実際にどう運用されているのか、社内でそういった風土があるのかを見た方がいいとアドバイスしています。

両立が不安な人へのもう1つのアドバイスとしては、1人でどうにかしようとしないこと、夫にもきちんと頼るということです。チームとして育児や稼ぎを考えていったほうがよいです。

─── 就活の時点で将来を考えているパートナーとお付き合いしている場合、どのようなコミュニケーションをとればよいのでしょうか。

難しいですよね、そういう悩みの相談は多いです。事実、就活のタイミングで別れるという話は聞きます。自分は彼の配属や転勤を考えているのに、相手は何も考えてくれないといった不満によるものですね。

ファーストキャリアが全てではなく転職もいくらでもできる時代ですので、あまりパートナーの働き方に縛られる必要はないと思います。「どうせ転勤になる人と結婚するからいいや」とキャリアを諦めて非正規の選択肢しか考えない人がいますが、それはもったいない考え方ですよね。

既にパートナーが京都で働いているという人がいて、いずれその人と結婚するので卒業しても非正規でいい、という人がいたのですが、その後考えが変わり、京都にいって就活に取り組むことにしたそうです。結果、彼女自身も京都に引っ越して満足いく仕事に就くことができ、今は結婚して両立ができたようです。

「彼がこういう仕事に就くから」と彼都合でキャリアを手放すのではなく、まずは制約を取り払って考えることが重要だと思います。

─── 今後、通年採用が本格化すると大学1,2年時から女性としてのライフキャリアを意識する学生も増えてくると思います。学生のうちから意識しておくべきことなどアドバイスを頂ければと思います。

まず、大前提、1年生の段階から興味のあるロールモデルをフォローしたり、興味のある分野でアルバイト・インターンに取り組むことは大賛成です。

なぜなら、大学で3,4年生の混合クラスで授業をした際に、就活を経験した人の成長が著しいんですね。それだけ大変で向き合うことも多かったんだなと思うと同時に、「じゃあなぜ1年生の段階からやらなかったの?」と思うこともあります。

好きな仕事や企業を探すよりもまずは、自分がどういう生き方をしたいのかを考えることが重要だと思います。そしたら生きるためには1日何時間を使ってどのくらいお金を稼ぎたいか、と考えることにもつながり、そしてそのお金を稼ぐ手段としてどのような仕事ならいいのか、と考えることができます。

企業や仕事と単体で捉えるのではなく、ライフキャリアという広い目線で考えてみてください。

編集後記|女性キャリアを複眼的に捉える

筆者は恥ずかしながら、お話を聞くまでは「仕事or家庭」という二者択一の考え方しか頭にありませんでした。しかし、白河さんのお話を伺う中で、社会制度の変遷や価値観の移り変わりなど様々な角度から女性キャリアを捉えることの重要性を知りました。

単眼的に捉えず、複眼的に捉えることで選べないと思っていた選択肢も取れるようになるはず。自分だけでなく周囲も巻き込みながら描いてみてはいかがでしょうか。

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